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6−2. 規則波の遡上
図-11は規則波の遡上高Rを示したものである。海底勾配が急になるほど、沖波の波形勾配H0'/L0が小さいほど、遡上波高は大きくなる。既往の研究結果の中では高田の式と最もよく一致している。
なお、今回得られた遡上高が既往の結果よりも全体的に小さくなった原因としては、水の粘性や斜面の粒度、遡上計の構造の違いが考えられる。
6−3 不規則波の遡上高の分布
海底勾配が1/10よりも急な海岸では、波の吸収・追いつきの現象が顕著ではない。したがって、沖波の波高の発生確率分布がRayleigh分布と仮定し、規則波の遡上高を重ね合わせることによって、不規則波の遡上高分布を求めることができる。そこで、規則波の遡上高を高田の式で与え、模型実験で得られた汀線近傍におけるsetup岬量とサーフビートによる水位変動を考慮して、不規則波の遡上高分布を計算した。
図-12は、不規則波の最高遡上高Rmax、1/10最大遡上高R1/10、有義遡上高1/3をそれぞれ沖波波高H0'との比によって示したものである。数値解析の結果は模型実験の結果とよく一致している。

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Fig.12 Runup Height Distribution

7. むすび
今回の模型実験によって、まず、急傾斜海岸では沖の波が汀線の間近まで変形することなく来襲することが明らかになった。浅水変形による波高増大こそ顕著ではないが、巻き波によって砕波する。また、海底勾配が急になるほど汀線近傍のsetup量や遡上高か増加することもわかった。
以上のことから、急傾斜海岸では巻き波や大きな遡上波による砂浜の侵食や海岸・港湾構造物の基礎の洗掘が危惧される。とりわけ駿河湾の湾奥部の海岸には、太平洋上の台風によって発生した波浪が島や半島などによって遮蔽されることなく直接来襲するので、構造物を築造するときの設計条件は厳しいものになる。
参考文献
1)合田良實:浅海域における波浪の砕波変形, 港湾技術研究所報告, 第14巻, 第3号, 1975年, pp.59−106.
2)Hunt,I.A:Design of seawall and breakwaters、Proc.ASCE, Vol.94, No.WW1, 1959, pp.72−92.
3)高田彰:波の遡上, 越波および反射の関連性について, 土木学会論文報告集, 第182号, 1970年, PP.19−30.
4)合田良寛:数値シミュレーションによる波浪の標準スペクトルと統計的性質, 第34回海岸工学講演会論文集, 1987年, pp.131−135.
5)Gavlin,C.J.: Breaker type classification on three loboratory beaches, Jour. Geophys. Res., Vol.73. 1968, pp.3651−3659.
6)Saville,T.Jr : Wave runup on composite slopes, Proc.6th Conf. on Coastal Eng., 1958, pp.691-699.
7)中村充・白石英彦・佐々木泰雄・伊藤三甲雄:砕波帯における波の特性に関する研究, 農林水産省農業土木試験場報告, 第7号, 1969年, pp.119−145.
8)河合弘泰:急傾斜海岸における波浪変形に関する水理模型実験報告書、港湾技術研究所水工部波浪研究室資料, No.85, 1995年, 125p.

 

 

 

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